おねしょ(夜尿症)について
おねしょの治療(小児科教授が伝える最新の治療法)
1.どんな治療法があるの?
おねしょを治すには基本的な生活改善の取り組みが一番大切ですが、それでも治らない場合には、以下のような治療をおこないます。
抗利尿ホルモン製剤(ミニリンメルトOD錠)
ヒトの体内では脱水になっても、体の水分を保持できるよう、尿を濃くして尿量を減らす、抗利尿ホルモンというホルモン物質が分泌されています。しかし、おねしょをするお子さんは、睡眠中の抗利尿ホルモンの分泌が少ない傾向があります。そのため、お薬でこのホルモンを補ってあげます。世界的にみても抗利尿ホルモン製剤(ミニリンメルトOD錠)がおねしょで一番良く使われるお薬です(現時点で世界130カ国以上で使用されています)
抗利尿ホルモンのお薬を服用することで、夜のおしっこが濃くなり量も減ります。尿の量が減ることで、朝までおねしょをしないようになります。現在は口の中でかんたんに溶ける口腔内崩壊錠が使えるので、水分を取らずに内服できます。この治療により60〜70%以上のお子さんはおねしょの回数が半分以下に減ります。
このお薬を飲んでおねしょが無くなっても、その後は徐々に減量してから中止することが大切です。このお薬は比較的副作用が少ないのですが、水分を過剰摂取すると頭痛や吐き気、胸の違和感などを訴えますので,使用法と注意点を十分に理解してから使い始めましょう。水分量を夕食から寝るまでに200mL程度に押さえていれば安全に服用できます。
おねしょアラーム(ユリンスコープ)
アラーム療法とは、就寝中に尿の水分を感知してアラームが鳴る装置を使い、身体が排尿を自発的に止める訓練をして治す方法です。これは、お子さんを無理に起こす治療法ではありません。寝る前に専用のアラーム付きのオムツを履き、おねしょでアラームが鳴ることで、お子さん自ら排尿を止めるように訓練を行う治療法です。年齢が6歳前後になって,おねしょを治したいと!お子さん自身が希望するようであれば試してみましょう。
アラームの音は調整出来ますし、バイブレーションだけも選択出来るので、兄弟がいる家庭でも比較的使用しやすくなってきています。最初の3ヶ月ほどは、子どもが自分で起きることは出来ないのでご両親のどちらかが起こしてトイレまで連れて行き、おしっこが残っていれば完全に排尿させる必要があります。
アラーム治療はお薬を使わないため、副作用の心配がなく、また、効果が出てくるとお子さんみずから、トイレに行けるようになったり、寝ている間の膀胱が増大して夜中に起きなくても朝までおねしょをしなくなるなど、3〜6か月程度で劇的な改善が期待できます。
抗コリン薬(ベシケア、バップフォー)
この薬は膀胱に直接働いて、膀胱の筋肉の収縮を抑制し,筋肉自体をリラックスさせる効果があります。それにより膀胱にためられる尿量が増えることが期待できます。
特に昼間におしっこを貯められない、トイレが間に合わないことがあるようなお子さんには効果的です。
抗利尿ホルモン製剤やおねしょアラームにこれらの薬を組み合わせて使用すると、とても良い効果が期待できます。比較的副作用が少ないのですが、ときにお腹の張りや便秘、のどの渇きなどを訴えます。
トフラニール(塩酸イミプラミン)
この薬は三環系抗うつ薬と呼ばれ、うつ病に使われている薬ですが、おねしょにも効果がある事がわかり、昔からおねしょの治療によく使われてきました。
効果のしくみは、夜間の睡眠を浅くし,かつ夜間の膀胱容量の増大をもたらすと考えられています。しかし、海外では重篤な心臓や肝臓の障害が報告されており、10歳以下には使用しないようにしている国もあり、服薬に際しては医師と良く相談する必要があります。
昭和大学藤が丘病院では、副作用の問題があることより原則として三環系抗うつ薬はおねしょの治療には使用していません。
ごく少数の難治性夜尿症のお子様に使用する際は、定期的な血液検査や心臓機能検査を行って注意深く副作用の発現に注意して継続することにしています。
便秘の薬(モビコール、酸化マグネシウム)
便秘の薬が夜尿症の治療になる?以外に思われるかたも多いでしょうが、頑固な便秘は膀胱を圧迫するため、尿がモレやすい状態になります。便秘治療薬で膀胱の圧迫をとるだけで夜尿症が治ることを自分たちのグループが報告しています
2.何歳頃までに医療機関にかかれば良い?
多くのお子さまは6〜7歳前後でに受診されますが、保護者の方が、おねしょが続く事に心配になったり、専門家からのアドバイスを必要とする時が受診するときだと思います。そのためにも、医療機関を受診する前にこのサイトの情報がお役にたてると考えています。
一般的には夜尿症の多くは自然軽快していくことが多く、またおねしょが身体に悪影響を及ぼすものでないことから、とかく放置されることが多い傾向があります。
受診の目安
昼間尿失禁 (>1回/週) |
毎晩の夜尿 | 週に2-3回の夜尿 | 週に1回以下の夜尿 | |
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6歳未満 | 生活改善 | 家庭で経過観察 | 家庭で経過観察 | 家庭で経過観察 |
6〜7歳 | 治療開始 | 生活改善 | 生活改善 | 家庭で経過観察 |
7〜8歳 | 治療開始 | 治療開始 | 生活改善or治療開始 | 生活改善 |
8歳以上 | 治療開始 | 治療開始 | 治療開始 | 治療開始 |
おねしょが小学校高学年まで持続している場合には、おねしょをしていることでお子さまが自信を喪失し、心理面、社会面、生活面に様々な影響を与えることがあります。このような影響がお子様にみられた場合は、おねしょが心理的ストレスとなって夜尿症の消失時期を遅らせる要因となりえるため、なるべく早く治療してあげた方がよいといえます。
また、クラブ活動に入会していたり、長い期間の宿泊体験が迫っている場合などは、医療機関で夜尿症に有効な薬剤などによる治療も受けることができるので、宿泊予定の6ヶ月以上前(最低でも3ヶ月以上前)をめどに専門の医療機関に受診することをお勧めします。
3.どのくらいの期間で治るの?
おねしょが治る時期は、夜尿症の治療を受けいる方も、自然に改善を待っている方も一番関心があることだと思います。しかし、おねしょにはいくつものタイプがあり、さらにお子さまひとりひとりのおねしょの重症度も、睡眠リズムも、さらに性格(やる気)や意識なども異なっているため、一概に言う事はとても難しいです。
多くの場合は、二次性徴を迎える12歳を過ぎるころには、おねしょは見られなくなるといわれています。さらに両親のどちらかがおねしょをしていた場合には、親のおねしょが治った時期に一致して改善することが知られています。しかし、約200人にひとり割合で成人まで続くこともあります。
夜尿症の1年間の改善率については、いくつかの報告があり、代表的なものでは、治療を行わない夜尿症の自然治癒率は、1つ年をとるごとに10~15%の割合で減少するとされています。
昭和大学藤が丘病院小児科の統計では、治療を行ったお子さまでは1つ年をとるごとに50%程度の割合で治っていきます。(治療開始後1年以内に約半数のお子さんはおねしょが無くなります。治療開始後2年では80%が、治療開始3年では90%のお子さんは治癒します。)
しかし、特に治療しないで経過をみていると、7~8歳で週の半分以上夜尿をしているお子さんは、12歳になって約半数はおねしょが続き、15歳になってやっと9割のお子さんが自然に夜尿が治ったといわれています。
このように、最終的には夜尿症の多くは自然治癒していきますが、治るまでには多くの時間を要し、その間のお子さまの心理状態や宿泊体験などに大きな影響を与えます。たとえ治療を開始しても、すぐには(数週間では)改善しないのが夜尿症の特徴です。