おしっこトラブルと発達障害の関係

発達障害と日中の尿モレ、お漏らし

ここでは、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの発達障害を持つお子さまの尿モレに関する複数の原因とそれに対する対策について詳しく解説します。発達障害をもつお子さまは、日常生活において多様な生活上の困難感を引き起こすことがあり、特に排尿の問題は子ども本人の生活の質に大きく影響を及ぼすことがあります。

主な原因

  • 神経生理学的調整の問題
    ADHDやASDのお子さまは、脳の前頭葉と線条体系の機能低下が一因とされます。これらは排尿をコントロールする重要な脳の領域であり、その機能障害は尿モレや尿失禁に直結します。先進的なfMRI技術により、これらの脳領域の活動が発達障害児童では通常と異なることが確認されています。
  • 自律神経系の調整不全
    自閉症スペクトラム症やADHDを持つ子どもたちは、自律神経の調整が難しい傾向にあります。自律神経は体温調節や心拍数の調整、さらには尿の貯蔵と排出を管理する重要な役割を担っています。この系統の不均衡は、尿のコントロールを困難にさせることがあります。
  • 注意の偏り
    ASDの子どもたちはしばしば特定の活動に強く集中し、その一方で他の必要な活動への注意が薄れることがあります。この過集中はトイレへ行くタイミングを逃す原因となり、結果として尿モレに繋がることがあります。ADHDの子どもは、注意が逸れやすいため、トイレに行く途中でも何かに気を捉えて、その間に尿モレを起こすことがあります。
  • 神経伝達物質の不均衡
    ADHDやASDのお子さまは、脳内の特定の神経伝達物質(ドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンなど)が正常なバランスを欠くことがあります。この脳内の伝達物質の不均衡が排尿筋の過剰活動を引き起こし、過活動膀胱の原因となることが示されています。
  • 飲水行動の特異性
    自閉症スペクトラム症を持つ子どもたちはしばしば非常に不規則に水分を摂取します。時には長時間にわたって全く水を飲まず、一度に大量に飲むことがあります。このような飲水パターンは、尿量の急増と尿モレを引き起こす原因となります。

対策と支援

ADHDやASDの発達障害を持つお子さまの尿モレ問題に対処するには、以下のような具体的な対策が有効です。

  • 環境調整
    子どもがトイレに行きやすい環境を整えることが重要です。例えば、トイレの場所が明るく清潔であること、そして音に敏感な子どものためには、トイレの水の流れる音が小さいものを選ぶなどの配慮が求められます。
  • 行動のモニタリング
    尿モレの前兆となる行動やサインを観察し、それを記録することで、トイレに行く最適なタイミングを把握しやすくなります。例えば、足をもじもじさせる、しゃがむ、または股間を触るなどの動作が見られた場合、これらを尿モレのサインとして認識し、すぐにトイレに誘導します。
  • 医療的介入
    一部の子どもたちは、神経伝達物質のバランスを整える薬物療法や、過活動膀胱に対する特定の治療が必要な場合もあります。例えば、ADHDの子どもには中枢神経刺激薬(コンサータやビバンセ)や非中枢神経刺激薬(ストラテラやインチュニブ)が有効であることがあり、これによって尿モレの問題が改善することも報告されています。特に、尿モレが重症なお子様にはコンサータの処方により劇的に改善する例があります。
  • サポートと教育
    家族や学校の教員など、子どもの日常に関わる全ての人々がこの問題について正しく理解し、適切な支援を提供できるようにすることが非常に重要です。教育プログラムやワークショップを通じて、これらの特殊なニーズに対応する方法を学ぶことが推奨されます。

事例と専門家の見解

発達障害を持つ子どもたちの中には、適切な介入によって大きく改善を見せる例が多数報告されています。たとえば、一定の環境調整と行動指導により、日常生活での尿モレがほとんどなくなったケースや、適切な薬物療法により排尿管理が向上したケースなどがあります。

次に実際の事例を紹介します。

A君:男の子(小学校3年生)

幼い頃から活発で、1歳半の健診の際には会場から勝手に外に出てしまったり、スーパーで遠くの売り場に勝手に行って何度か迷子になったことがありました。3歳から保育園に通い始め、すぐに多くの友達を作りましたが、ブランコの順番待ちができずに滑り台からも横から登るなどしてしばしば怪我をしました。
年長の秋、発表会の際に大量の尿モレを経験し、それがきっかけで友達からからかわれ、近くのモップを振り回して女の子に怪我をさせるなどの問題行動が増えたため、発達外来を受診し、ADHDと診断されました。
ADHDのためのソーシャルスキルトレーニングやペアレントトレーニングを行いましたが、日中のオムツ外しが進まず、小学校入学前でもまだオムツを使用していました。小学校に入学してからは、毎日パンツがびっしょりと濡れて帰ることがありましたが、本人は気にせず、放課後は元気に遊んでいました。
尿モレが原因で友達からからかわれることが増え、皮膚の荒れもひどくなり、尿トラブル外来を受診しました。母親はADHDが影響して面倒くさがりでトイレに行かないと考えていましたが、検査の結果、過活動膀胱が主な原因であることが明らかになりました。
日常生活指導と抗コリン薬(ベシケア)の使用により、尿モレが大幅に改善し、トイレでしっかりと尿を排出できるようになりました。尿モレが解消されると、叱られることも少なくなり、本人の表情も明るくなりました。周囲の友達との関係も改善し、成長を続けています。

小児科専門医・教授 池田裕一のコメント

ADHDのお子さんは小児過活動膀胱を併発しやすく、注意散漫やタイミングの悪さからトイレタイミングを見計らうことが苦手です。そのため尿モレが多く見られます。過活動膀胱の適切な治療と生活指導が必要です。

Bちゃん:女の子(小学校2年生)

小さい頃から手がかからず、言葉の発達が遅いことを除き、特に問題はないと思われていました。3歳まで言葉が出ないことに親は心配していましたが、小児科医は様子を見るように言いました。
乳幼児健診で体を触られるのを嫌がり、いつも大騒ぎをして周囲を困らせました。保育園に入園してからは、周囲の子供たちにあまり関心を示さず、一方で教室に掲示された世界地図に夢中になり、その地域の国名を全て覚えて家族を驚かせました。また、寝る前や朝起きたときは、ぬいぐるみを綺麗に並べないと行動に移せないことがあり、そのため学校に遅れることもしばしばありました。授業中は先生の話を聞かずボーっとしていることが多くなり、発達クリニックを受診した結果、ASD(自閉症スペクトラム症)の疑いがあると診断されました。
尿モレは小学校入学以来、徐々に悪化し、3年生からはスカートまで濡れるほどでした。学校の古いトイレの水の流れる音に敏感であり、そのためトイレに行くことが苦痛でした。病院での診断後、職員室横の新しいトイレを利用することで、学校でのおもらしが解消され、本人も保護者も明るい表情を取り戻しました。

小児科専門医・教授 池田裕一のコメント

ASDのお子さんは、排尿を適切にコントロールすることが難しい場合があります。そのため、尿を完全に排出するのが困難で、しばしばおもらしをしてしまいます。また、音や匂い、光に敏感なため慣れない環境では排泄できないことも少なくありません。そのため、学校や保育園などと協力して、本人が安心して排泄できる環境を整えてあげましょう。それでも、排泄支援が困難な場合は、適切な薬物療法も検討されます。

Cさん:女性(16歳、通所施設に通う)

生後半年から目が合わず、追視や微笑み返しがなく、1歳を過ぎても一人遊びや言葉の発達が見られず、周囲に意識を向けることがありませんでした。3歳の時点で自閉症と診断され、その後療育センターで日常生活支援学習を受けました。小学校および中学校では支援学級を通い、知的レベルは3歳相当と評価されています。中学校卒業後、地元の通所施設に通い、主に祖母が面倒を見ています。
16歳になってもトイレでの排尿がうまくできず、夜尿も毎日のようにありました。日中もオムツでの排尿が続き、皮膚のかぶれが酷くなったため、通所施設の職員がインターネットで尿トラブル外来を探し、受診しました。検査を試みましたが、Cさんの拒否反応が強く、身体を抑制できず検査を断念しました。その後、漢方診断に切り替え、八味地黄丸を処方しました。また、通所施設のスタッフと協力し、日常的に皮膚ケアを行うことで、皮膚の状態が改善しました。

小児科専門医・教授 池田裕一のコメント

知的発達障害のお子さんには、定型的な医療手続きが困難な場合が多く見られます。このような場合には、非侵襲的な治療方法を模索し、家族や介護者と連携して日常生活の質を向上させる取り組みが重要です。