おしっこトラブルと発達障害の関係
発達障害とおねしょ(夜尿症)との関連
自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)など発達障害を持つ児童は、一般の児童と比べて夜尿症の頻度が高いとされています。通常、子供の夜尿症の発生率は約5〜7%ですが、発達障害を持つ子供ではその率が10〜15%にまで上昇します。また、発達障害児童はおねしょが治りにくく、難治性になる割合も一般の児童に比べて非常に高くなります。さらに、中学生や高校生など高年齢の夜尿症には、発達障害が高い確率で合併しています。
発達障害と夜尿症の原因について
脳機能障害と夜尿症との関連
夜尿症は、膀胱の制御を担う大脳の機能に関係しています。特に、自閉スペクトラム症やADHDの子供たちは前頭前野や前帯状回などの脳の特定の部分に障害を持つことが多く、これが膀胱機能を低下させ、排尿コントロールに影響を及ぼします。近年は、fMRI技術により脳機能障害と発達障害の関連性が明らかになっています。
睡眠障害と夜尿症との関連
自閉スペクトラム症やADHDの子供たちは、しばしば通常の睡眠パターンから逸脱しています。これには、入眠困難、中途覚醒、覚醒困難などが含まれ、これらの不規則な睡眠パターンは夜尿症に直接影響を与えることがあります。睡眠の質が低下すると、深い睡眠の段階が減少し、この段階での尿生成の抑制が不十分になりがちです。さらに、深い睡眠が減少すると、夜間の尿意を認識しにくくなり、夜尿のリスクが高まります。
また、ADHDを持つ子供たちは、朝の覚醒困難がみられる割合が高く、朝になっても布団から出られないために尿漏れを引き起こすことがあります。自閉スペクトラム症の子供たちも、不安や刺激過敏によって睡眠が乱れることがあり、これが夜尿症を悪化させる要因となることがあります。
また、夜驚症や夢遊病など睡眠随伴症状も発達障害の子どもには見られることが多く、これらも夜尿症と関連している可能性があります。
そのため、治療に反応しない夜尿症には睡眠検査を実施することが重要です。
自律神経の調整不全と夜尿症
自閉スペクトラム症やADHDの子供は、体温調節や尿の貯蔵と排出を制御する自律神経の調整が苦手です。これが夜間の膀胱不安定性につながり、結果的に夜尿症を引き起こす原因となります。
水分摂取の不規則性と夜尿症
発達障害を持つ子供は水分摂取が不規則で、特に夕方以降の過剰な水分摂取が夜尿症の直接的な原因となることがあります。また、自閉症の児童は1日3〜4Lと水分を過剰に摂取している場合もあり、その際は適切な水分量への調整が不可欠です。
感覚の鈍感性と夜尿症
自閉スペクトラム症の子供たちはしばしば感覚が鈍く、尿漏れを自覚しにくいため、夜尿症が改善しにくいという特性があります。
社会的認識の欠如と夜尿症
ADHDの子供たちはしばしば他人の目を気にせず、夜尿症の改善に必要な自己管理や意識が欠けがちです。高年齢になっても、オムツで寝ることに抵抗感がなかったり、夜尿が続いていることの羞恥心がないことも治療を長引かせます
治療と対策
昭和大学北部病院では、発達障害を特化とした夜尿症の専門診療を行っています。当院に夜尿症で受診される患者様の30〜40%に発達障害を合併しており、必要に応じて発達障害の診断と治療も行なっています。
治療に抵抗性の夜尿症に対しては、各種膀胱検査、血液や尿検査に加えて、睡眠脳波検査による睡眠障害の診断も行っています。
夜尿症に対しては抗利尿ホルモン、抗コリン剤、交感神経刺激剤、漢方薬などの多様な治療オプションを提供し、薬の組み合わせによるアプローチが良好な結果を示しています。特に、抗ADHD薬や向精神薬との併用が安全であることが確認されている場合、治療の効果はさらに向上します。